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仙台地方裁判所 昭和47年(行ウ)3号 判決

原告 株式会社藤崎

被告 仙台中税務署長

訴訟代理人 山田厳 山田昇 橘内剛造 ほか三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一  請求原因1ないし4項の事実は、当事者間に争いがない。

二  (本件株式が企業支配株式に当たるか否かについて)

1  企業支配株式について法人税法施行令三四条三項は、「……株式会社の特殊関係株主等(その株式会社の株主及び当該株主と第四条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係その他これに準ずる関係のある者をいう。)がその株式会社の発行済株式の総数の百分の二五以上に相当する数の株式を有する場合における当該特殊関係株主等の有するその株式会社の株式をいう。」と規定しており、同条四項によれば、その企業支配株式に該当するか否かを判定する時期は、その評価をなすべき事業年度終了のときの現況によることと規定している。

2  これを本件についてみると、原告が訴外会社の設立直後に一万四八〇〇株を、その後訴外会社の増資に際し六万株を、さらに訴外藤野和夫から一〇〇〇株をそれぞれ取得したことにより、本件事業年度終了当時において訴外会社の発行済株式総数八万株のうち七万五八〇〇株を所有していたことは、当事者間に争いがなく、右事実によれば、本件事業年度終了当時における原告の訴外会社に対する株式の取得率は九四パーセント以上に達していたものであるから、その所有株式七万五八〇〇株は同施行令三四条三項にいう企業支配株式に当たると認められる。

3  原告は、右取得株式のうち、増資の際の六万株と訴外藤野からの一〇〇〇株についてはいずれも企業支配株式にあたらないと主張する。

しかしながら、一の企業か他の企業をその支配下におくという場合には、そこに何らかの利益、例えば新規市場の開拓、有利な仕入先の確保、知名度の向上、信用の保持、財産の保全等通常の価値をもつてしては表現され得ない何らかの利益がもたらされるからであり、右のごとき利益は、当該企業を新たに支配する場合のほか既に有する企業の支配を維持または強化する場合にも生ずるものであるから、企業支配株式といいうるためには、新たに企業を支配するために取得した株式のほか、その株式を取得することによつて従来の企業支配関係を維持または強化する場合をも含むと解すべきである。

ところで〈証拠省略〉によれば、訴外会社の増資直前の決算期当時、原告は訴外会社に約二億円の貸付金を有していたこと、訴外会社の増資決定は、原告の訴外会社に対する右貸付金債権を保全するとともに訴外会社の倒産等を防止し、右両者の社会的信用を維持する必要から原告の意向を受けてなされたものであること、したがつて原告が右増資に応じて訴外会社の株式六万株を取得し右のような利益を得たのは当然の成り行きであつたこと、また原告は訴外藤野との間で、同人が訴外会社の株式一〇〇〇株を引受けた当時、同人から請求あり次第その株式を額面金額以上で買い取る旨の特約を結んでいたが、その後同人より右特約に基づく請求を受けた際、さらに同人が原告を信頼して右株式を引受けてくれたので、原告の社会的信用を保持するためにも右特約を遵守し同人に損失はかけられないとの考えのもとに同人から右株式を取得し右のような利益を得たものであること等が認められる。

右認定事実に照らすと、原告の取得した増資の際の六万株および訴外藤野からの一〇〇〇株は、原告が、その株式を取得することによつて訴外会社に対する企業支配関係を維持または強化し、社会的信用の保持、財産の保全等の利益を得たものであるから、いずれも企業支配株式に当たると認めるのが相当である。原告の右主張は理由がない。

三  (本件株式の評価について)

通達九-一-一五によれば、「法人が有する企業支配株式についてその取得が当該株式の発行会社の企業支配をするためにされたものと認められるときは、当該企業支配株式の価額は、当該株式の通常の価額に企業支配にかかる対価の額を加算した金額とする。」とされている。すなわち、企業支配株式については、当該株式の純粋な価額に加えて企業支配権ともいうべき価値が含まれていると考えられるからであり、税法上その株式の市場価額によらず、原価法によつて評価することとしているのもそのためである(法人税法施行令三四条一項)。

1  (本件株式の通常の価額について)

(一)  本件株式が証券取引所に上場されている銘柄ではないこと、証券業協会における店頭売買銘柄でもないこと、新聞等に取引価額が掲載されているような気配相場のある銘柄でもないことは、当事者間に争いがなく、このような有価証券の評価については、法人税法や同法施行令等にその具体的方法の規定がなされていないが、通達九-一-一四によれば、非上場株式で気配相場のないものの価額について「(一)売買実例のあるもの-当該事業年度終了の日前六月間において売買の行なわれたもののうち適正と認められる価額(二)売買実例のないものでその株式を発行する法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるもの-当額価額に比率して推定した価額(三)(一)および(二)に該当しないもの-当該事業年度終了の日または同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時における一株当りの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」の三つに区分し、その評価方法を示しているので、本件株式の場合も右により評価するのが相当と認められる。

(二)  ところで、本件株式については、売買の実例がないこと、訴外会社と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の売買実例もないことは当事者間に争いがなく、右事実によれば、本件株式の通常の価額の評価方法については右(三)の基準によるべきこととなる。

(三)  そこで、判断するに、訴外会社の純資産価額が増資の直前がマイナス六八七〇万円、直後が同三八七〇万円、原告が訴外藤野から株式を取得した当時が同五〇七六万九〇〇〇円、本件事業年度終了時が同七〇六二万九〇〇〇円であることは当事者間に争いがなく、これと前記認定の事実によれば、右(三)の基準により純資産価額等を参酌した場合における本件株式の通常の価額は、いずれもゼロと認めるのが相当である。

2  (本件株式の企業支配にかかる対価の額について)

(一)  本件株式のうち、訴外会社の設立直後に取得した一万四八〇〇株の株式の取得価額に企業支配にかかる対価としての意味が含まれていないことは当事者間に争いがなく、これによると右株式の本件事業年度終了時の企業支配にかかる対価はゼロと認めるのが相当である。

(二)  訴外会社の増資に際し取得した六万株について、原告が一株五〇〇円合計三〇〇〇万円で取得したことは当事者間に争いがなく、右事実に、前記通常の株価がゼロであるとの認定事実によれば、原告が通常の株価ゼロと認められる株式を六万株三〇〇〇万円で取得したのは、そこに企業支配権ともいうべき価値を見い出したからにほかならず、したがつて、原告が増資に際し支払つた三〇〇〇万円は企業支配にかかる対価の額と認めるのが相当である。

原告は、右増資新株の取得に際し支払われた三〇〇〇万円は企業支配にかかる対価の額ではないと主張するが、企業支配にかかる対価の額は、新たに他の企業を支配するために通常の株価を超えて株式を取得する場合に、その通常の株価を超えて支出される金額のほか、既に支配している企業に対する支配力を維持または強化する場合に、通常の株価を超えて支出される金額もまたこれに含まれると解すべきである。けだし、営利を目的としている企業が、その採算を度外視した非経済的な行為によつて、通常の価額に比して異常に高い価額で株式を取得しようとするのは、そこに経済的な価値を認めたからにほかならず、このことは新たに企業を支配する場合と、既に支配している企業に対する支配力を維持または強化する場合とで差異がないからである。したがつて原告の右主張は理由がない。

(三)  訴外藤野から取得した一〇〇〇株について、原告が一株五〇〇円合計五〇万円で取得したことは当事者間に争いがなく、右事実に、前記通常の株価がゼロであるとの認定事実によれば、この場合も右増資の際と同様、そこに企業支配権ともいうべき価値を認めたからにほかならず、したがつて訴外藤野に支払つた五〇万円は企業支配にかかる対価の額と認めるのが相当である。

原告はこの場合も、右株式取得の価額に訴外会社を新たに企業支配するための対価としての意味は含まれていないと主張する。

しかしながら、前記二の3で認定したごとく、原告が右株式を訴外藤野との特約に基づいて取得したものであるという特別の事情が認められるとしても、原告が訴外藤野の要求どおり右株式を取得すれば、これによつて原告の社会的信用が保持されるという価値があり、このような価値も右の企業支配権ともいうべき価値に含まれると解されるから、原告の右主張は理由がない。

四  (企業支配株式の評価損について)

1  法人税法施行令六八条二号ロによれば、「……その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下した……」場合に企業支配株式の評価損の計上が認められると規定し、さらに、通達九-一-九によれば、右の「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」として、「当該事業年度終了の日における当該有価証券の発行法人の一株当りの純資産価額が当該有価証券を取得したときの当該発行法人の一株当たりの純資産価額のおおむね五〇パーセント相当額を下回ることとなつたとき。」がこれに当たるとしている。

2  ところで、原告が訴外会社の増資に際し新株を取得した直後、および訴外藤野から株式を取得した時並びに本件事業年度終了の日の各場合における訴外会社の純資産価額がいずれもマイナスであつたことは前記三の1の(三)認定のとおりであるから訴外会社の右各場合における一株当りの純資産価額は訴外会社の増資の直後がマイナス四八三円(-38,700,000÷80,000 ≒ -483)となり、訴外藤野から株式を取得した時がマイナス六三四円(-50,769,000÷80,000 ≒ -634)となり、本件事業年度終了当時がマイナス八八二円(-70,629,000÷80,000 ≒ -882)となる。これを本件についてみると、増資に際し取得した株式の一株当たりの純資産価額の低下比率は四五パーセント(《882-483》÷882 ≒ 45)となり、また訴外藤野から取得した株式のそれは二八パーセントとなる。したがつて、右通達の基準によるとしても、訴外藤野から取得した株式は約二八パーセントの低下にすぎなかつたのであるから、これをもつて、訴外会社の「資産状態が著しく悪化した」場合に当るものとはいえないが、増資の際取得した株式は約四五パーセントの低下となつたのであるから、その「資産状態が著しく悪化した」場合に当るものといえないことはない。

3  そこで、次に「その価額が著しく低下した」場合といえるか否かであるが、本件株式の評価換え前の帳簿価額は一株五〇〇円であつたこと、訴外会社の発行済株式総数は八万株であつたことは当事者間に争いがなく、右事実に、前記原告の取得した本件株式が企業支配株式として本件事業年度終了当時三〇五〇万円と評価されるべきものであつたことを合わせ考えれば、原告の所有する訴外会社の株式の一株当たりの本件事業年度終了当時の時価は四〇二円(30,500,000÷75,800 ≒ 402)であり、一株当たりの帳簿価額との低下比率は一九・六パーセント(《500-402》÷500 ≒ 19.6)である。したがつて、原告の所有する訴外会社の一株当たりの株式の価額は、その帳簿価額に比べてわずか一九・六パーセント低下したにすぎず、この程度の低下ではいまだ「その価額が著しく低下した」場合という要件には当たらないものと解すべきである。

五  右に述べてきたところから、被告が、原告のなした有価証券評価損三七九〇万円の計上を否認し、これを法人税法三三条一項により損金に算入しなかつたことは何ら事実を誤認したものではなく、適法な処分であつたというべきである。

六  (過少申告加算税の賦課決定処分について)原告は、本件株式は評価損されるべきであるのに、これを否認してなした過少申告加算税の賦課決定は事実を誤認したものであると主張するが、本件株式が評価損をなし得ないものであることは右に述べたとおりである。したがつて、被告の右更正処分にともなつて原告の納付すべき法人税額計算の基礎となつた事実が、その更正前の税額計算の基礎となつていなかつたことについて国税通則法六五条二項の正当な理由があつたとはいえないから、過少申告加算税の賦課決定処分についても何ら事実を誤認した違法はないといわなければならない。

七  よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石川良雄 松本朝光 栗栖勲)

別表〈省略〉

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